shishouの独り呟き

アラフィフ、独身、派遣社員。薄給なのに趣味は金のかかるものばかり。そんな女の日常です。

NODA・MAP「足跡姫~時代錯誤冬幽霊」

無事に石川に帰ってきました。
昨日、ほとんど雪⛄がなかったのに、朝起きたら結構な量積もってました。今シーズン最多かも。
日曜で良かったー。

さて、初日の舞台の感想がまだだったので、改めて振り返ってみたいと思います。

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この作品は、中村勘三郎さんに向けたオマージュとして、野田さんが書いた作品です。
これまで、WOWOWで何度か野田作品を拝見していましたが、生では今回が初めて。
昨年も、「逆鱗」を観たいと思ってたのですが、他に観たい舞台が重なり、見逃してしまったので(その後WOWOWで観ました)。

私も、晩年の勘三郎さんしか拝見していないものの、この方がきっかけで歌舞伎を観るようになり、亡くなったと聞いたときは呆然としていまいました。亡くなって、今年の12月で5年になります。

三津五郎さんが勘三郎さんの葬儀で「肉体の芸術って辛いね。死んだら何も残らないもんな」と言うような事を仰ったのですが、それが野田さんが今回の作品を書いた大きな動機になったようです。
生憎三津五郎さんも、後を追うようにこの世を去ってしまいましたが、肉体の芸術を捧げたお二人への、野田さんなりの感謝のメッセージであり、そして肉体は滅んでも、魂は今もなお脈々と受け継がれてますよ、と言うメッセージでもあるかもしれません。

舞台は江戸時代、歌舞伎を造ったと言われる出雲の阿国と、阿国の弟サルワカを中心としたストーリー。
出雲の阿国は、歌舞伎でも何度か出てきますが、元々は女性の舞踊だった歌舞伎。でも、なかなか日の目を見ず、更に役人の監視が厳しかったりして、やがて廃れていってしまう。

いきなり、宮沢りえさん初め踊り子たちの妖艶な舞踊からスタート。りえさん、色っぽい。
りえさん、生で初めて拝見しましたが、想像以上の存在感で圧倒されました。阿国と足跡姫、対照的な役を上手く演じ分けていて、華奢なのに舞台ではとても大きく感じました。

そして、頼りなくて穴ばかり掘ってる弟サルワカの妻夫木聡君。
妻夫木君、実はラストシーンまでちょっと物足りないなと思いながら観てました。
悪くはないけど、どの作品も同じように見えて、期待外れだなぁって。それが、大どんでん返しになるのを、序盤から中盤までまだ知らずに、じれったく拝見していました。

古田新太さん、最初に登場したシーンが、ただ横たわってるだけの死体なんですが、これだけで笑える役者さんって、彼以外思い浮かばない(笑)
所々に笑いをちりばめ、決めるときはビシッと決めるあたりはさすが。二枚目古田さんは本当格好いい❗
個人的には、魚をくわえて裸で舞台を横切るシーンがかなりツボでした😂

このお三方を初め、今回皆さん素晴らしい役者揃いなので、安心して観られましたね。
佐藤隆太君は野田舞台初出演なんだそうですが、そうとは思えない好演ぶり。彼の持ち味の熱さのようなものを感じられたし、長身なので立ち姿も美しい。

こちらも意外に野田作品初の鈴木杏ちゃん。
確かに彼女は、蜷川さんの舞台のイメージが強いですよね。こちらもりえさんに負けじと妖艶な舞踊を披露してました。これまで割と、元気な役のイメージがあるけど、今回はそれプラスちょっとしたたかさとか狡さも加わり、大人の演技も魅せていました。

中村扇雀さん。
こちらは、歌舞伎ではお馴染みの役者さん。
坂田藤十郎さんの息子さんで、立役、女形両方兼ね備えていて、実力もあるし見映えもする俳優さんなのですが、何故か歌舞伎ではあまり陽の当たらないイメージがあるんですよね。
歌舞伎界では、次男以下の扱いが違うとよく言われますが、扇雀さんもその一人であります。

勘三郎さんの舞台でお馴染みの役者さんは、偶然かも知れませんが、次男以下の方が多いんですよね。
彌十郎さんや亀蔵さんもそうですし、芝翫さんも。
芝翫さんは最近こそ襲名等で大きなお役をこなしておりますが、元々はやはりあまり恵まれてなかったようですし。
歌舞伎は、実力よりも家柄や続柄が重んじられる、ちょっと保守的な世界だなと思わせる所です。
それでも、仁左衛門さんのような例もありますし(仁左衛門さんは三男。こちらも勘三郎さんとの共演が多かったですよね)、一概には言えませんが。

話が随分それましたが、扇雀さん。
今回は伊達の十役人と言うことで、幾つかの役人を器用に演じ分けていました(一部は野田さんが演じられてましたが)。
何かね、平成中村座を彷彿とさせる感じと言うのでしょうか、ある意味勘三郎さんへのオマージュ感を随所に味わえました。
そんなに代り映えしないと言えばそうなんですが、役者ごとの特徴が微妙に違うし、途中で元の役人が出たりするので、結構大変だったのではないのでしょうか。
それでも、刀を裁くシーンなんかはさすが歌舞伎役者、らしさが出てましたね。

太夫役の池谷のぶえさん。
以前、違う舞台で拝見したことがありますが、そんなに登場回数がないものの、物凄い存在感があります。こういう方がいると、舞台にスパイスが効いて、見応えが出ますよね。

そして、野田秀樹さん。
演出家としては言うまでもなく、役者としてもいい味出してます。決して他の役者さんの邪魔になることなく、上手くポイントで登場されます。
今回そんなに頭を悩ますことなく観られたのは、良かったですね(たまにちょっと理解不能な所があるので)。言葉を大切にされて、且つ捻りがあるのも野田さんならでは。
今回は、歌舞伎がベースにあるからか、すんなり入れたような気がします。

ラストシーンは、やられました。
そう来たか~、って感じ😭
泣きはしなかったけど、かなりジーンと胸に響きました。
そして、「妻夫木くん、凄いっっ❗❗」って。
あの1シーンで全て持っていった妻夫木君、狙っていたのか、天性なのか。多分後者なんでしょうね。
彼の持つピュアさと、それまで隠れていた心の叫びと、色んな思いを一気に溢れさせた感情、そして恐らく野田さんが一番伝えたかったメッセージ。
胸にズンッと来ましたね。
りえさんの儚さや、弟を思いやる慈愛のようなものも良かった。
二人の姿があまりにも美しくて哀しく、それでも魂は永遠に残って行くんだ、というのをラストシーンでひしひしと伝わりました。

それが翌日の、歌舞伎座で猿若と出雲の阿国の舞踊に繋がるのですが、勘三郎さんが導いたような気がしました。そして、恐らく勘九郎さんが、七之助さんが、小さな勘太郎君長三郎君が、猿若から続く勘三郎の名跡を、守って行くのでしょう。
本当に幸せな2日間でした。
桃太郎🍑もいいけど、勘三郎さんの好きな方は是非こちらにも足を運んで欲しい。
そして、自分なりのオマージュを感じて欲しいですね。