shishouの独り呟き

アラフィフ、独身、派遣社員。薄給なのに趣味は金のかかるものばかり。そんな女の日常です。

通し狂言「平家女護島」

東京2日目は、急遽こちらへ行くことに。

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本当は、歌舞伎座昼の部を幕見で見ようと思ってたのですが、ある方のブログを見てこちらも素晴らしいと聞き、気になって2日前にチケットを取って行ってきました。

平日のせいもあると思うけど、観客がまばらで、前方も空席がチラホラ。
拍手も少な目で、観客にちょっと物足りなさは感じましたが、役者さんたちは熱かった😆シンプルな分、それが役者さんたちの良さを出していたような気がしました。

昨日、あまりにキャストが多すぎて結構見逃しましたが、今日はきちんと把握して見られました。
唯一、平判官安頼は誰?と思ってたら、芝翫さんのお弟子さんの中村橋吾さんでした。芝翫さんの所のお弟子さんは、女形芝のぶさんと言い、いい役者さんが多いですよね。橋吾さん、良かったですよ。

今回は有名な「鬼界ヶ島の場」以外に、序幕と三幕と通しで公演したのですが、鬼界ヶ島の場だけだと、ただ俊寛が哀れだなと悲劇になりがちですが、前後に話を持ってきたところで、色んな背景とか愛情とかを感じることが出来たり、関係性が分かったりなど、すんなり話に入ることができた気がします。

序幕には、俊寛の妻東屋が登場します。
清盛に側仕えを申し付けられながら、俊寛を心から愛する東屋は、自ら命を絶つことでそれを証明します。
とても悲しいですが、東屋の俊寛に対する愛情の深さを感じました。
この役は片岡孝太郎さんが演じていたのですが、実はこれまでこの方の女形、あまり得意ではなかったのですよ。でも今回は良かった。落ち着いた大人の女性と言うべきでしょうか。悲哀漂う雰囲気とかすごく出てたし、その辺りはさすがだなと思いました。

その東屋に自害を薦める能登守は橋之助くん。
今回は割と重要な二役を演じていて、奮闘していましたよ。
こう言う端正と言うか折り目正しい役が本当に良く似合う役者さんになったな、と。
弟の福之助くんは有王丸役。
兄弟揃っての芝居もありましたが、こちらの見所は三幕目になります。

芝翫さんは清盛公役も演じられています。
俊寛とは対照的な憎い役どころ。
東屋は実質上この人が殺したようなものですし、三幕目では千鳥も殺してしまいます。
何て冷酷なんだろう、と。
俊寛に対する憎しみがとても伝わってきて、迫力がありました。

そして有名な鬼界ヶ島の場。
映像では何度も拝見してますが、生では初。
これまで勘三郎さんで何度も見てきて、私の中では俊寛勘三郎さんなんです。
なので、芝翫さんがどのように演じられるかとても期待していました。

勘三郎さんとはもちろん違いますが、芝翫さんの俊寛も良かった。
よろよろとした風貌とか、立ち姿に哀愁が漂い、本当に俊寛になりきっていました。
何て言うか、前半は必死に生きていると言うのを感じ、それが東屋の死を告げられると一気に絶望感で溢れ、最後は一人残されていつまでも船を追い掛ける。もうこのシーン、いつも泣きそうになります。こんな悲しいことがあるでしょうか。

瀬尾は本当に冷酷だし、憎々しい。
それも亀鶴さんが演じているので、余計にそう感じます。この方、こう言う役をやらせると本当に上手いですよね。まだお若いのに大したものです。
基康役は橋之助くん。
基康や瀬尾の格好って、脚が丸出しでないですか。
橋之助くんの脚がムチッとしていて、後ろ姿が妙に可愛かったです(芝居に対する感想でなくごめんなさい)。

少将成経は中村松江さん、千鳥は坂東新悟くん。
意外と年の差カップル(夫婦)ですよね。
新悟くんは、千鳥を勘三郎さんに教えてもらったよとの事で、今回楽しみにしてました。
これまで七之助さんと鶴松くんの千鳥を見たことがあるのですが、二人ともそれぞれ個性が出ていて良かったのです。奇しくも勘三郎さんの息子、一番弟子(第三の息子)、そして中村屋との共演が多い若手といずれも勘三郎さんの縁のある千鳥となります。
この幕でも初々しく可愛い千鳥が見れましたが、こちらも三幕がとても良かった。
千鳥には幸せになって欲しかったのに…。

そして三幕目。
船が到着した後。
有王丸に千鳥を託し、その後清盛が後白河法皇を殺害しようと海に沈めます。
それを千鳥が救うのですが、そのために清盛に殺されてしまうのです。
千鳥が救出した後白河法皇を有王丸に託し、有王丸は立ち回りで敵を次々とやっつけます。
福之助くん、カッコ良かったです。
力強く、様になっていました。
お兄さんとは対照的に、こう言う動きのある役が合ってますね。なのでうまくバランスが取れている。
そして、次は千鳥の最期。
こちらもやっと幸せになる目前だったのにね。
清盛に対する憎しみと、俊寛らに対する情愛と、そして自らの身の哀しみと、そんな感情を静かに表現してました。
そして最後の海老反り(?)、圧巻でしたね。
新悟くん、素晴らしかったです。
この幕は、若い二人が本当に見せ場を作ってくれましたね。

そしてラストシーン。
清盛を、東屋と千鳥、二人の亡霊が襲います。
幽霊はそれぞれ綺麗だったけど、もう少し動きが欲しかったかな。
それに、私は右端の前方に座っていたのですが、千鳥の幽霊がほとんど真横でよく見えなかったのが悔やまれます。
二人の幽霊と、それに翻弄される清盛。
それはとても美しくもあり、怖くもありました。
女の怨念は怖いですからね…。そこで幕が下ろされました。

あの俊寛には、こう言う前後の話があるんだとよく分かりました。それが効いて、ただの悲劇ではなく、ひとつの物語として入りやすかった感じです。そんなに派手さはないけど、堅実な感じの役者さんたちが、しっかりと演じられてた印象がありました。
勘三郎さんは見ていたのかな?
見ていて欲しいな。そう思いました。